迷走神経とウェルネスの関係
脳と主要臓器、身体組織をつなぐ脳神経は、基本的な機能においても、心身の奥深いところにおいても重要な役割を果たしています。健康やウェルネスについて考えるとき、心臓の健康、認知機能、メンタルヘルスといった語り口は一般的ですが、神経系の重要性に着目することはほとんどありません。特に、迷走神経という膨大な神経が機能の最適化に大きく関わっていることは見過ごされがちです。
迷走神経とは
脳神経は全部で12対あります。その10番目として数えられる迷走神経は、12対の中で最も長い神経です。迷走神経は、脳の奥にある脳幹の髄質と呼ばれる部分から発生し、頭の付け根から首、胴体を通り、下腹部の大腸まで伸びています。迷走という名前は、この神経系が全身をさまようように伸びて、臓器系と脳幹をつないでいると考えられ、ラテン語の「さまよう」という言葉があてられたことに由来します。
神経系は脳と身体の相互コミュニケーションを支配しています。その中でも迷走神経は、主要な臓器や身体組織と脳との連絡経路になっています。また、感覚や身体機能、ホルモンなど、体内のあらゆる働きに関与し、指示を出したり、重要な役割を担ったりしています。
迷走神経の特徴
迷走神経は胸部と消化器官に達する唯一の脳神経で、自律神経系の一部である副交感神経系において、重要な役割を担っています。副交感神経系は、休息と消化を司っています。
迷走神経の経路は3種類あります。
- 内臓性遠心路
- 運動性遠心路
- 求心路
遠心路は、中枢神経系から身体の器官、筋肉、組織へと情報を伝達する神経細胞の経路です。求心路はその逆で、末梢からの信号を中枢神経系に伝えます。つまり、感覚として入力された情報を脳に送る経路です。
迷走神経とウェルネスの関係
迷走神経は、基本的な生命活動にも健康維持のためのより高度な活動にも関わる、解剖学的・生理学的に不可欠な存在です。心血管系、消化器系、呼吸器系など、人体組織の恒常性も、迷走神経なくして成り立ちません。
迷走神経は心拍数、呼吸、臓器間の感覚伝達といった不随意的な身体活動をコントロールしています。また、腸と脳のコミュニケーションやリラクゼーションなど、より高度な生理学的機能も支えています。迷走神経は、生命維持の最も基本的なニーズを満たすだけでなく、より深いレベルで健康をサポートしてくれているのです。
迷走神経の関与する重要な生理機能:
- 呼吸補助
- 心拍数の制御
- 発声
- 聴力
- 消化管運動
- 嚥下と咽頭反射
- 血圧
- 膀胱機能
- 感覚処理 – 痛み、触覚、温感
呼吸機能
迷走神経は神経伝達物質であるアセチルコリンによって呼吸器系に呼吸するよう指示します。ゆっくりと長く深い呼吸をすると、迷走神経を刺激することができます。ストレス下でも体をリラックスさせるには、迷走神経の働きを利用するのも一案です。
心拍数をコントロールする
アセチルコリンには、心拍数を遅くする作用があります。迷走神経は、大動脈から圧受容器と化学受容器を介して感覚を伝達しています。圧受容器は心臓血管系の血圧に関する情報を送り出します。化学受容器は迷走神経を介して血中の酸素濃度に関する情報を提供します。迷走神経は副交感神経系に関与する主要な神経で、ストレスにさらされた時やその後に心拍数を低下させる働きがあります。迷走神経が正常に働かないと、ストレスかかる出来事の後にリラックスまで時間がかかり、より有害なストレスホルモンの影響を受けることになりかねません。
発声と嚥下
迷走神経は、発声と嚥下を助ける咽頭と喉頭の筋肉にも分布しています。また、食べ物や液体、異物から気道を守る上で重要な咽頭反射を担っています。喉の筋肉を緩めると呼吸が楽になり、迷走神経系の健康維持にも役立ちます。
迷走神経を利用してウェルネス向上:
- 神経系の鎮静
- 味覚への関与
- 満腹感の伝達を助ける
- 抗炎症作用
- 腸脳相関
- ストレス軽減、リラックス
- 記憶形成に寄与
- 生殖能力とセクシャルヘルス
抗炎症作用
炎症は傷害や病気に対処する免疫系の正常な反応です。迷走神経は、広大な感覚網を通じてサイトカインやその他の炎症マーカーのような物質が体内で生成されているのを感知すると、抗炎症性神経伝達物質を作る必要があると脳に伝えます。これは免疫系の反応を調整し、慢性的な炎症の有害な影響から身を守るのに役立ちます。
ストレス解消とリラクゼーション
交感神経系は、闘争するか逃走するか、という過緊張状態に身体を備えます。これもまた、人間の生存に不可欠な仕組みです。トラウマになるような危機が迫っている、あるいは、それほど大問題ではないけれど職場で否定的なやりとりがあって不安になっている、というような、思わしくない状況を察知し対処する上で重要です。初期の体の反応には、迷走神経の鎮静作用が関わってきます。
交感神経系は、アドレナリンとコルチゾールという人間の生存に必要なホルモンを分泌します。副交感神経系の一部である迷走神経は、神経伝達物質アセチルコリンを放出します。迷走神経はまた、体の他の部位に信号を送って、オキシトシンやバソプレシンといった神経伝達物質を用意させます。
腸脳相関
迷走神経は、脳神経の中で唯一、腸にまで届いています。腸と脳のやりとりの中で、空腹ではなくなったという信号を腸から脳へ送り、満腹感をもたらすのも、迷走神経の役割のひとつです。
迷走神経は、ストレスやトラウマ、身体の反応に関連するメンタルヘルスにも深く関わっています。実は、セロトニンなどの体内の神経伝達物質の多くは腸で作られています。痛み、健康的な体重管理、グルコースとインスリンの媒介といった面でも、ストレスやメンタルヘルスと密接な関係があります。
まとめ:
- 迷走神経は脳神経の中で最も長く、最も遠くまで伸びている神経です。
- 脳と身体の臓器や機能の大半をつないでいます。
- 迷走神経には心拍数を低下させ、血圧を調整する働きがあります。
- 迷走神経は呼吸を刺激します。
- 迷走神経は触覚、温度、痛みなどの感覚を処理します。
- 迷走神経は休息と消化に重要な役割を果たすだけでなく、リラクゼーションとストレス軽減に広く貢献しています。